【Minimalカルチャー対談】〈とおの屋 要〉オーナー・佐々木要太郎さん(前編)「料理は、その土地の代弁者」

2023.11.21 #Minimal's Story & Report

日本一予約の取れない宿とも言われる〈とおの屋 要〉。
岩手県・遠野市で、一日一組のみ宿泊を受け付けているオーベルジュです。

オーナーであり、米農家・醸造家・料理人でもある佐々木要太郎さんと、Minimal代表・山下が、日本のものづくりの過去と未来について語り合いました。全3回でお届けします。

チョコレートで、初めて「酔っ払う」?

山下
要太郎さんに初めてお目にかかったのは、6年前でしたよね。

佐々木さん
そうでしたね。打ち上げで山下さんがお持ちになったMinimalの板チョコレートを初めていただきました。「酔っ払う」という感覚を、チョコレートで初めて経験しました。とにかく驚いたことをよく覚えています。

山下
僕も同じです。要太郎さんのどぶろくを飲んで衝撃を受けました。正直それまでどぶろくを飲んだ回数は数えるほどでしたが、そこまで良い印象がなかったお酒でした。

要太郎さんのどぶろくは僕のもっていたイメージとは別物で、一つの料理というか、複雑でこんな美味しい飲み物があるのかと驚きました。

僕はその後〈とおの屋 要〉に泊まらせていただいて、ゆっくりお話しさせていただきましたね。

その時に夜ゆっくりと「どぶろく」を飲んでさらに衝撃を受けたんですよ。美味しいことはもちろんですが、ワインも含めてかなり飲んでも、朝起きるとスッキリしていたんです。逆に体調が良くなったんじゃないかくらいの感じでした(笑)。

そして、本当に感動したのが要太郎さんの世界観でした。ちょうど雪の降る時期だったのですが、移築された古民家の窓から見える遠野の夜にしんしんと振る雪を眺めながら、その風土が生んだ郷土料理とどぶくをいただく。本当に贅沢な時間でした。あの時いただいた野うさぎのジビエ料理は忘れられません。

佐々木さん
そうでしたね(笑)。よく覚えていらっしゃいますね。

宿泊は1日1組限定

山下
もう全部覚えてます。料理は全部美味しくて、「土地を丸ごと味わう」という体験をさせてもらいました。なんだか“祈り”みたいな気持ちになるんですよね。これは贅沢すぎると思って。

佐々木さん
ありがとうございます。僕たちの「料理」の考え方は「土地の代弁者」ということなんです。その土地の声をいかに届けるか。皆さまに直接口に取ってもらって、何を感じてもらえるのか、何を伝えられるのか、ということが僕たちのやっていることなんです。

佐々木さん
ああいう料理を東京でやってもたぶんダメで、「体験」が大事だと思うんです。やっぱり土地に人を呼び込むことはすごく大事だと思うんですね。そう考えたときに料理というツールは最高なんですよね。

そして1泊していただいて朝食まで持っていけるというのが、宿泊業の醍醐味なんです。「表現者」としては、長い時間、滞在してもらえるというのは魅力なんですよね。

アルコールは、歴史も文化も複層さも瓶に閉じ込めて

山下
僕、「アルコール」ってすごく羨ましいと思っているんですよ。いろんな美味しいものを食べていった先にある世界というか、この深淵の深みにすべてが集約されていると思うんです。お酒には、歴史も文化も味の複層さも、全部この瓶の中に閉じ込められているじゃないですか。それを、料理と合わせるとさらに奥深い世界になる。

でも、これ、あんまり言うと怒られますけど、料理はすごくいいのにお酒とのペアリングをちゃんと考えていないお店ってけっこう多いんですよ。

佐々木さん
きっと現場を知らないからですよね。

山下
そうですよね。アルコールにめちゃくちゃ詳しくて、料理も全部分かっているお店は、料理のプロセスとお酒のプロセスを分かっているから、こことここが合うとやってくれるんです。

お酒にはいろいろな要素があるので、どういうふうに料理に合わせるかによって全然変わるじゃないですか。

佐々木さん
おっしゃる通りですね。

山下
僕はアルコールって料理に近いと思っています。料理は、食材やタイミングや食べる体調など変数によって、その瞬間が本当に最高になるかはちょっと変わってくるのですが、お酒はすべてを閉じ込めているんですよね。

しかも瓶内熟成もあって、どんどん変わっていきますよね。

佐々木さん
僕は「液体」の凄さを感じますね。

熟成は分子の結合で起こりますが、アルコールと水の分子が分離しているとやっぱり丸みを帯びていかないんですね。それが年月が経つことで、どんどん一つになり、密度がより濃く、体積が増えてまろやかになります。液体って面白いですよね。

 

「店を持つのが目標」は危険

山下
要太郎さんのこれまでの歩みをうかがっていきたいのですが、〈とおの屋 要〉というオーベルジュを始められたのはいつですか?

佐々木さん
2011年からですので、12年経ちます。

山下
すごいですね。10年経ってみていかがですか? 始められた時と変わりましたか?

佐々木さん
全然変わりましたね。僕自身にも変化がありますし、長く一緒にやっているメンバーは彼らのできる仕事が増えてくるので、僕は手が空いてまた新しく仕事を探そうみたいに変わっています。

だから今はもう完全に「教育」に走ってますね。その一つが、独立開業を希望されている若手の料理人をうちで雇用して、ノウハウを全部教えるという取り組みです。それが盛岡にある「ポンコツ酒場」という場所なんですけど。本人たちが納得した段階でどんどん独立してもらっています。

山下
面白いですね。

佐々木さん
きっかけは、飲食業界に身を置いている若い人たちと話したとき、みんな目標が「自分で店を持つこと」と言うんですね。「店を持つのが目標」って今の時代、危険なんですよ。いかに継続させられるかが一番重要なはずなのに。

山下
ああ。スタートがゴールになっちゃってるんですね。

佐々木さん
そうそう。そういうことです。

山下
非常によく分かります。洋菓子も全く同じです。お店ってずっとあり続けるべきなので、30歳で始めたらみんな遅いと思ったりするんですけど、そんなことはありません。

少なくとも30年間はお店をやり続ける覚悟を持って始められるか。その視点が欠落したままお店を持つ事がゴールになってしまっていることがとても多いと感じます。Minimalはまだ9年ですけど、9年やるだけでも本当に厳しいと実感しています。

佐々木さん
あと、都会で仕事をしている料理人さんは「生産現場」を知らないんです。
こないだ若手の料理人を畑に連れていったら、「靴が汚れる」と言って畑に入るのをためらっていたんですよ。だって料理人ですよ。汚れるっていう問題じゃなくて、素材について知るために来ているから、靴が汚れたとしても畑に入るのは当たり前じゃないですか。



山下
そうですよね(苦笑)。素材がどう生えているのかに興味津々で、汚れなんか気にしないみたいな感じがあってほしいけどなあ。でも畑で実際に触れることができるのはいい経験ですね。彼らだってまだ10代20代ですもんね。

佐々木さん
そうなんです。今、米作りも体験してもらって、いろいろ成長しているところですね。

いつ潰れてもおかしくなかった

山下
若手を育てる、そういう場所を用意しないと、と思った動機は何でしたか?

佐々木さん
やっぱり、僕も若かったころ、20代なりに考えていることがあったんですよね。でもそれが受け入れられるような環境はあまりにもなかったんですよ。それがフラストレーションだったので、いつか見てろよってずっと思っていたんです(笑)。



山下
なるほど。ちゃんと誰かのためにそれができるのは素晴らしいですね。

佐々木さん
そもそも若い僕にきっかけをくれたのはうちの親父だったんです。うちの親父、僕がやりたいということを一切反対したことがないんです。〈とおの屋 要〉も、田舎だとけっこうなチャレンジなんですよ。



佐々木さん
実家はずっと民宿をやっていたのですが、当時でもうあの価格帯で続けることの限界は感じていました。このままでは潰れると分かっていたので、僕のお酒と料理でもてなせる場所を絶対に作ろうと。それで、1億円の銀行融資を受けて開業しました。

でも、いざ始めようとしたら大震災ですよ。宣伝もできないまま、お店を開けられませんでした。民宿のほうは復興バブルで忙しくなり、そちらに集中していましたが、それが終わった途端にもう何もやってこなかったので、あれよあれよという間に資金ち金がなくなり、潰れかけたんです。

本当に厳しい状況になったタイミングで、たまたま「どぶろく」が海外で注目をいただいて、スペインとイタリアの大学の醸造講座を受け持つことになり、2年間行ったり来たりしていました。

それで「自家製どぶろく 水もと」が逆輸入のようになって、東京の飲食店さんたちの目に止まり、救われていったんです。



それでもいつ潰れてもおかしくない状況をあの手この手で乗り切っていたら、雑誌『自遊人』の岩佐十良さんに見つけていただきました。

新型コロナウイルスのときには、東京の飲食店さんたちがやってきてくれたんですよ。自分たちのお店を閉じていたじゃないですか。それで時間ができて、このタイミングにどぶろくを知りに遠野に行ってみようとなって来て頂きました。それに本当に救われたんですよ。東京の方々にはものすごくお世話になりました。忘れられない方々ですよね。そうして助けてもらって、乗り切ってきました。

山下
うわぁ。すごいな。鳥肌ものですね。

佐々木さん
いや、あれは奇跡です。僕の力なんてほとんどないんですよ。唯一、ただただ同じことをやり続けた、努力したというところだけで。あとはもうメディアの方々が拾ってくれたおかげです。

山下
きちんと続ける事を「やれる人」が一番すごいんです!

次回は、オーベルジュ開業に至る10年前に、無農薬農業による「どぶろく」造りを始めた佐々木さんの奮闘ぶりをおうかがいします。中編に続きます!

※中編はこちら

佐々木要太郎さん
1981年遠野市生まれ。料理人/醸造家。100年余り続いてきた民宿「とおの」を4代目として継ぐ。料理の基礎を父から学んだ後、独学で料理を極める。その傍らでどぶろく造りを始め、2011年9月から民宿の隣に「とおの屋 要」をオープンし、ゆったりとした時が流れるレストラン、1日1組限定のオーベルジュを構えている。
http://tonoya-yo.com/index.html

 

※Minimalカルチャー対談、過去の連載はこちら

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